『ナツノカナタ』の岡和輝×神椿スタジオが贈る、静謐な旅路
崩壊した世界を古いパソコン越しに旅する名作テキストADV『ナツノカナタ』で、多くのインディーゲーマーの心を揺さぶった個人開発者・岡和輝氏。
彼がVTuberやバーチャルシンガーを展開するエンタメレーベル「KAMITSUBAKI STUDIO(神椿スタジオ)」とタッグを組んだ共同プロジェクト「ANMC」から、またしても強烈な「エモさ」を放つ新作が送り出された。それが『ガールズメイドプディング』だ。
個人制作ならではの鋭く切ないテキストセンスに、大手レーベルのプロダクション力が加わった本作。
だが、本作の凄みはバックボーンの豪華さ以上に、「ゲームとしての心地よさと空気感の作り込み」にある。
走る、喋る、食べる、ただそれだけの旅が、なぜこれほどまでに愛おしく、そして切ないのか。
そのプレイフィールを紐解いていく。

筆者的には物語の内容と雰囲気を、是非プレイして味わってもらいたいので、ストーリーのネタバレは一切なく、読者に興味を持ってもらえるように執筆したので「気になってるけど買うか迷ってる」ゲーマーも安心して記事を読んでもらえればと思う。
「誰かに見られていないと消える」切なく歪な世界
静寂に包まれた街の中、二人きりのバイク旅。
その背景にあるのは、「誰にも見られていない人が消えてしまう」という謎の現象によって、急速に人が姿を消した世界だ。
主人公であるスミビとニコミのふたりは、決してお互いから目を離さない。
見られていないと、自分自身も消えてしまうからだ。
このあまりにも歪で切ないルールが、ふたりの旅に強烈な親密さと、どこか背中合わせの静かな緊張感を与えている。
旅の途中で、ふたりは生き残った数少ない人々とも出会う。
サイドカーに彼らを乗せ、一時的に行動を共にしながら交わされる会話。
そこから少しずつ紐解かれていく「世界で何が起きたのか」という真相のヒント。
そして、やがて訪れる切ないお別れ。
去りゆく人々の佇まいもまたどこか儚く、二人の旅路に深い哀愁を刻んでいく。

静寂と寂しさが漂う崩壊後の空気感を描かせたら右に出る者はいない、岡和輝氏ならではの鋭いテキストセンスが存分に発揮されており、プレイヤーは彼女たちの言葉や出会う人々のドラマを一言たりとも聞き逃したくないという衝動に駆られる。
「走る・食べる・泊まる」が紡ぐストーリーと独自の旅情
本作のゲームデザインは非常にユニークだ。
多くのADVのように特定の目的地に到達してストーリーが進行するだけではではなく、料理をし、食事をすることによって物語が展開していき、「バイクで道を走った距離(時間)」に応じて二人の会話が進行していく仕組みになっている。
ディストピアな世界でのサバイバル要素
旅を支える要素として「空腹・体力・正気」の3つのゲージが存在する。
いずれかのゲージが0になるとゲームオーバーとなるサバイバル仕様だ。
ゲーム開始時には難易度選択(EASY / NORMAL / HARD)が可能で、主にこのゲージ消費量が変わってくる。

▲画面左上のゲージを確認しながら旅をしよう。
ただし、筆者がNORMALでプレイした限りではゲージ管理に極限まで追いつめられるような厳しさはなく、サバイバル要素はあくまで「崩壊した世界を旅している」というリアリティを生むフレーバー程度で機能しているように感じた。
油断をしているといつの間にかゲージがなくなっていて焦ってしまうといった場面もあったが、難易度に怯える必要はない。
この世界の過ごし方が物語に影響与えている
旅のテンポを握るもうひとつの肝が「夜の訪れ」だ。
真夜中が訪れる前に泊まれる建物(宿)を見つける必要があるのだが、ここにちょっとした注意点が存在する。
時間内に宿を見つけられないと、手に入るはずだった調理器具などの重要アイテムを逃してしまうのだ。
特定の調理器具がなければ作れない料理が存在し、ひいてはその料理がきっかけで解放されるストーリー(会話)が見られなくなってしまう。
効率的な探索と時間管理が求められるポイントだ。

さらに、ストーリーには奥深いルート分岐が用意されている。
進行中の会話から新たな話題(フラグ)が生まれたり、道中で出会った人物をサイドカーに乗せて行動を共にして初めて解放されるルートなど、プレイヤーの選択や行動によって物語の表情が変化する。
対応する料理で食事をしたり、特定の場所へ向かうことで解放されるエピソードも豊富だ。
中には後味の悪いBADエンドも存在するため、二人の旅路をどう導くかはプレイヤーの手に委ねられている。
耳と目で味わう、どこまでも愛おしい「静寂の旅」
『ガールズメイドプディング』の最大の魅力は、グラフィックやテキストだけでなく、「音」と「空気感」の作り込みによってもたらされる圧倒的な没入感にある。
エンジン音とともに流れていく寂れた風景。
二人が静かに交わす何気ない言葉。そして、胸を締め付けるように鳴り響く劇伴。
BGMを手掛けるのは、独自の音響世界で魅了する音楽家・中川大二郎氏だ。静寂とサウンドの対比が絶妙で、ただバイクを走らせてBGMと走行音に身を委ねているだけでも、胸がキュッとなるような「エモさ」が脳を満たしていく。
さらに、道中入手できるカセットテープを使用すると好きな今日を聴くことも可能だ、しかも特定のカセットテープを使用することで展開される物語も存在する。

ドライブ感とガールズトークのテンポが異次元の心地よさを生み出しており、「ずっとこのまま二人でバイクを走らせていたい」と思わせる中毒性がこのゲームには満ちている。
静かな時間に没頭したい、インディーADVの新たな到達点
『ナツノカナタ』でゲームファンを唸らせた岡和輝氏の尖ったテキストセンスと、「KAMITSUBAKI STUDIO」の持つ洗練された演出力が見事に噛み合った本作。
「誰かに見られていないと消える」という歪な世界で紡がれる、二人きりの儚い会話と出会い、そして別れ。
単なる雰囲気が良いADVの枠に留まらず、分岐するストーリーや調理アイテムの回収といったシステム面を上手く世界観に溶けこませた、極めて完成度の高い一作に仕上がっている。
静かな夜に、ゆっくりと世界観に浸りたいゲーマーには間違いなく刺さるはずだ。少女たちが求める旅の結末を、ぜひその目で確かめてほしい。



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